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2007年6月20日に施行された改正建築基準法等を再改正するべく、弊社代表桑原は「改正建築基準法等の再改正要望書」を作成しました。なお、この要望書は全国会議員、建設関連団体、新聞社や雑誌社などマスコミへもお送りしています。

改正建築基準法等の再改正要望書

1.はじめに

私は、清水建設株式会社で構造設計業務に6年、施工管理業務に22年従事した後、株式会社希望社を設立し、一級建築士事務所として19年間、総合建設会社として9年間営業してまいりました。

本年6月に改正建築基準法等が施行されたことに伴い、建築確認事務が滞って建築着工件数が激減するという事態が発生しました。このような事態に対して、建築生産に関わる多くの団体が、国土交通省にさまざまな要望を行い是正を求めているようです。

私も、設計者あるいは施工技術者として、この改正建築基準法等の内容に問題を感じておりますが、建築物を国民に提供する企業の経営者としての経験から、改正内容の細部ではなく改正の方向そのものが、わが国の建築発注者ひいては多くの国民の要望に反するものであると考えることから、改正法の運用緩和にとどまらずその再改正を要望するものであります。

2.改正手続きにおける国民不在

2006年11月に発覚した耐震強度偽装事件は、建築物の安全性すなわち生命や健康や財産の保護に不安をもたらすものとして、国民的関心を呼びました。また、建築工事は建築確認という公の確認行為を経て行われることから、偽装を見逃した行政の責任についても問題となりました。

今回の法改正は、建築物の安全性の保証という国民の要望に応えるためのものであり、偽装行為の防止のために立法措置を講ずること自体は重要なことですが、その内容は、緊急措置という理由の下に建築関係者の意見が十分検討されず、何より、建物を建て、使い、暮らす国民の現実的な要望を考慮しないで作られているように思います。

この改正が国民不在のものであることは、多大な金銭的負担を伴って行う建築事業に法改正がいかなる影響を及ぼすのかを、建築主、建築購入者、建築施設利用者等に、すなわち国民に周知徹底されていないことや、建築確認業務の細部の判断基準が不明確なまま、ピアチェックを行う審査員の確保が不足し、大臣認定の構造計算ソフトが出来ていないといった状況で法が施行されてしまっていることにも表れています。

3.国民の要望に反する改正内容

住宅をはじめとしてほとんどの建築物は、国民の豊かな暮らしのために存在しています。豊かな暮らしとは、生命や健康が守られることにとどまらず、個人の財産が保護されることであり、人としての精神的・物質的満足を求めることができることとも言えます。

国が他の何事にも優先して国民の生命・健康の保護を図るべきであることは、言うまでもありませんが、これを強調しすぎて国民の活動に何重もの制限を加えることは、国民が願う「豊かな暮らし」を構成するさまざまなことがらの実現を阻むことになります。 したがって、その制限の実効性を十分検討し、その制限によって国民が得る利益と失なう利益とのバランスを図ることが、極めて重要であると思います。

このような観点から見ると、耐震強度偽装行為は、たしかに国民の生命・健康を脅かす要素を持ったものですが、それが「事件」として過大にとりあげられ大騒ぎをした挙句に、今回の建築基準法等の改正という過剰な対応がなされてしまったといわざるをえません。

  1. 建築確認や検査を行う特定行政庁(民間確認検査機関も含む。以下同じ)や構造計算適合性判定機関の担当官の技術レベル・人員数が充分でないと思われることや、図書の整合性にこだわり表面的な書類チェックに終始するシステムであることから、改正の主目的である偽装防止の実効性が疑われること
  2. 現在および将来の建築発注者に、過剰な不利益をもたらすこと
    具体的には、金銭的負担増(確認申請料の増加、事業実施期間の長期化による設計料や工事費の増加、土地購入費用や工事費等に係る借入金利息の増加など)のみならず、建築確認中および確認後の計画変更がしにくくなることや設計の自由度が狭められることにより、(安全性を損なわない場合でも)発注者が求める建築物の実現が妨げられることなど
    建物の安全性は高いに越したことはないが、国民は安全性と同時に利便性、経済性を強く求めている。(“良い建築を安く造る”ことが国民共通の要望である。)
  3. 上記2.と同様、発注者だけでなく、建築物の賃借人や利用者の金銭的負担が増し、利便性が低下すること
    また、建築産業はいわゆる基幹産業であって、建築工事の停滞が他の産業活動の停滞を引き起こしたり、建築コストが上昇することで多くの産業における事業運営コストも上昇したりすることから、日本経済全体、ひいては国家財政にまで少なからず打撃を与える要因となること
  4. 改正された確認・検査システムを運用するための追加費用に税金が使われ、国民生活に不可欠な他の分野の予算が減らされる、もしくは国民の税負担が増えること
  5. 建築の設計・施工も国民の経済活動であって、市場経済においては消費者である建築発注者は自己責任のもとでできる限り多様な選択肢が保障され、生産者である設計者や施工者はそれぞれ特徴を持った製品によって自由競争を行うというシステムへの、国民の理解・志向が高まっている現在において、改正は公による経済活動への制限となり世の流れと逆行するものであること

4.建築基準法等の再改正の概要

(1)改正法の過剰な制限の廃止

今回の改正内容の全部を否定するわけではありません。改正された諸制度のどの部分をどの程度活用すべきかを、実効性の観点から再検討することだと思います。

現在、国交省にも改正法の運用面での厳格化緩和の方向が見られますので、それにより解決が図られる事項もあろうかと思いますが、以下、現時点で思いつく項目を大小列挙いたします。

  1. 適合性判定審査の対象範囲を、11階以上または31m以上の建築物に限定する
  2. 確認審査期間を最大30日(適合性判定を伴う場合は45日)に縮小する
  3. 1回の事前相談で確認申請(本申請)が受理されるようにする
  4. 構造計算の安全証明書の提出を不要とする
  5. 工場の認定表・機材の大臣認定書・各種部品図等について、設計段階で決定されておらず、かつ適法性判断に不必要なものの添付を不要とする
  6. 確認申請図書の不備は、再申請ではなく補正で対応できるようにする
  7. 建築確認後の計画変更については、ひとまず軽微な変更の範囲を拡大し、その場合には再申請ではなく補正で対応できるようにする
  8. 中間検査は、基礎コンクリート打設前の1回に限定する
  9. 完了検査の検査内容や基準を、改正前の程度に戻す

(2)建築確認・検査制度そのものの扱いについて

昨今、さまざまな「偽装事件」が世間を騒がせています。特に「食品」についての偽装行為が次々と明るみに出ており、これはまさに耐震強度と同じように国民の生命や健康に直結した問題であります。

しかし、大方の国民の反応は、偽装行為を行った企業等に対して法的および社会的責任を求めるものであって、耐震強度偽装事件のように国の責任を問うたり、食品の製造や販売に関する法規制の強化を求めたりするようなものではありません。

このような違いが起こる理由は、公の行う確認・検査という建築独自の制度にあります。大量画一生産ができないために、法の基準に適合しているか否かを個別に確認・検査しなければならないという建築生産の特殊性が、公が個々の建築の法適合性や安全性を保証しているかのような錯覚を、国民に与えています。

また、現在の建築主事や設計者の多くが、確認・検査を「建築工事の着手・続行許可」「建築物の使用許可」であるかのように扱っていることが、国民の錯覚を増幅させています。

行政は、法の定める項目と手続きに従って、建築計画や建築物が法に適合しているか否かをチェックするに過ぎないのですから、その業務が適正になされていれば、現に建てられた建築物の安全性についての責任を負うことはありませんし、いくら厳格厳重なチェックを実施しても問題を100%発見することは技術的に不可能です。しかし、今回の法改正で手続きを厳格化したことが、かえって国民に、建築確認・検査制度に不正防止の期待をますます抱かせ、確認済証を公の保証書として扱う意識を高めてしまうのではないでしょうか。

建築の設計・施工は、法に基づいて業務実施の権限を与えられた建築士および建設業者が行うものであり、問題が生じたときの責任もまたこれら業務実施者にあります。

また、どのような耐久性・品質の建物を建てるかは、発注者の要望と建築士の技術的判断により決定されれば良く、これに対する責任は両者が負うべきでしょう。

以上の理由から、次の提案をいたします。

  1. 建築確認・検査の対象事項を、「集団規定」および「単体規定のうち避難施設・耐火建築物など社会的調和と生命の保護に直接影響するもの」に限定する
  2. 建築確認・検査制度の法的性格、および、特定行政庁には法適合性判断以上の権限はなく、建築物の適法性・安全性を保証する責任もないことを、法に明文化するとともに国民に周知させる
  3. 設計責任を負う者を明確にするために、設計業務を受託する建築士事務所は、意匠設計・構造設計・設備設計およびその他の業務のうちいかなる業務について委託を受け責任を持つのかを明示した設計業務委託契約書を、作成しなければならないこととする

(3)建築確認後の計画変更の扱いと工事監理制度について

改正法では、設計段階で十分な検討を行い、完成度の高い設計をもって確認申請することを発注者に求めています。また確認後の計画変更には多大な費用と時間を求めており、事実上計画変更を不可能にするものになっています。

しかし、設計という行為は、設計者の限られた経験と能力、設計料、設計期間といった制約のもとに行われており、確認申請前に発注者の要望を過不足なく設計図書に反映させることは不可能です。また、建築確認後の長期にわたる施工期間のなかで、発注者の要望が変化したり、新たな情報が得られたりすることは決して珍しいことではなく、このような事情による計画変更をも一律に制限することは、建築発注者や利用者の利益を過剰に侵害することであります。

また、今回の法改正以前の問題ですが、工事監理という制度が誤って理解され、発注者の要望実現のためになされるべき計画変更がなされていないという現実があります。

すなわち、「工事監理とは、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認すること」という建築士法の条文が、「確認済みの設計図書を変えてはならない」という意味に捉えられ、発注者の真の要望が実現されないでいるのが現状であるということです。なお、そもそも現在の高度化した建築技術から考えれば、施工中の建築物の品質チェックを十分にできる建築士はごくわずかであると言ってよいでしょう。

以上の理由から、次の提案をいたします。

  1. 上記4.(2)1.で提案した検査対象事項に関係しない計画変更には、申請・届出等の手続きを必要としないものとする
  2. 現在の工事監理制度は廃止し、建築士法の工事監理の定義は削除する
  3. 施工段階における建築士の役割を、「設計図書に記された機能が空間構成され、デザインコンセプトが維持されているかの確認」および「発注者の要望実現・品質向上・コスト低減等に資する計画変更提案に対して技術的判断を行い、設計図書を変更すること」と定め、建築士の業務として法に明記する

5.偽装行為に対応するための提案

これまで述べてまいりましたとおり、今回の建築基準法等の改正内容には大きな問題がありますが、設計に関する偽装行為の防止や被害者救済のための立法措置は他にいくつもあると思われます。

すでに各関係部門でご検討済みの事項もあるかとは思いますが、重要な施策として取り上げていただきたい事項の概要を以下に記します。

  1. 偽装等の違法行為者に対する、よりいっそうの厳罰化
  2. 設計業務に関する違法行為や法不適合図書の通報制度の創設
  3. 違法行為による損害の補償を担保するための保険制度等の創設
  4. 建築士事務所の営業もしくは業務委託契約にあたって、財務状況や業績、委託者の損害の補償担保制度への加入状況等の情報を委託者に開示することを義務付け

1.2.については、建設業者の談合行為に対する対策と同様、違法行為による罰則を過大なものとすることにより、違法行為が割に合わないものであることを示すとともに、通報や内部告発により、その公表を促すものであります。
3.4.については、建築発注者が設計業務を依頼する段階で建築士事務所を選択するために有用な情報が得られるようにするとともに、設計業務の問題により被った損害の賠償を担保する公のシステムを準備するというものです。

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