創業者桑原によるコラム「遊自耕」は、隔月発行の建築情報誌「飛翔」誌上にて連載しています。飛翔の送付をご希望の方は、飛翔送付申込フォームよりお申込下さい。(送付無料)

遊自耕 不常識を食らう シリーズno.149

「私の目指す生産共同体構想」

30年がかりの調教実験

 希望社を設立してから、間もなく30年を迎えます。この間、働かされて働くのではない社員集団を実現するため、生産組織と人創りに取り組んできました。

 実験牧場を造り、社員を実験動物として、諸実験を繰り返してきましたが、未だ結実し得ないでいます。が、ようやく一つの方向が見えてきました。

 私は、社員たちに「会社に頼るな、国家にすがるな」「自立して生きる道を掴め」と言い続けてきました。しかし、社員たちは、経営者のちょっとした心遣いや甘言に影響されて、勤勉に働き続けるだけで、これで良いのかと考えることができない動物でいます。

 経営者の庇護にすがり一生を終えていく以外に考えられないのが、社員であります。雇用されている社員をいくら調教しても、働かされる道から抜け出させることはできません。また、全ての社員に働きかけても、社員全てがまるごと経営者に変わっていくことはあり得ません。

 働かされて働くのではない働き方とは、雇用の鎖を断ち切って経営者の道を選んだ社員が、労働者(従業員)として働く人たちと一緒になって働くことであり、私のやるべきことは、このような経営者の道を選ぶ社員を一人でも多く増やし、その者達が経営する小規模生産組織をたくさん作っていくことだという思いに、30年かけてやっと至りました。

目指す生産共同体構想

 希望社は、近代資本主義体制下で構築された株式会社の理念やシステムとは全く違った生産共同体を目指します。

 この構想は、生産性向上を前提に経済成長のみを追い続けている現代社会がそう遠くなく終焉すると見すえてのものです。そして、希望社30年の歴史を基にした新しい生産組織を目指す実験を、スタートさせるものです。

(1)希望社を解体し、小規模生産組織(会社)に替える。すなわち、多角化してきた希望社の事業を分解し、分解した事業を小規模に小分けして、それを行う小さな会社を設立していく。

(2)設立した小さな会社は、それを統括する親会社の完全子会社とし、親会社のグループ会社として経営していく。

(3)親会社の運営は、親会社に出資する取締役(以後、持株社員という)が行う。完全子会社の経営者は、原則親会社の持株社員から選出する。

(4)親会社への出資には上限を設け、各持株社員には発行済株式総数の1/7以上の所有を認めない。また、株式の所有は本人の在職期間のみとし、退任時には返還するものとする。

(5)スタート時の持株社員は、現在の従業員の中で経営者の資質があると判断する者から選任する。

 大株主を作らず、株の所有は在職期間のみとするという方式により、親会社の代表者は実質的に持株社員の合議によって決まることになります。代表者の地位は、大株主が自分の親族につないでいくものではなく、合議で選ばれた者が有期で務めるものになり、「株式会社は特定の者の所有物でない」という原則にそったものとなります。

生産共同体の“新しい”経営者

 希望社の目指す生産共同体の経営者は、世間にある会社の取締役とは性格を異にし、以下のことが深く理解できる資質が必要です。

・儲け主義に走らず、利他主義に基づいて商品やサービスを提供することが、経営の根幹にあるということ

・生産共同体の経営者は、経営方針を立案し、組織のリーダーであると同時に、労働者(従業員)と一緒になって生産する者であるということ。おめおめ搾取者として利潤の独占を目指さないこと

・一生かけて豊かな人間になっていくために、たえず自己変革を心掛けることが大切であること

  なお、どれだけの者が労働者であることを脱して経営者に転換できるか、そして、それらの者が希望社の理念を自分の価値観(考え方・判断の基準)にしつつ成長していけるのかが、課題であります。

  希望社は今年、新しい実験を次世代に継承して私の世代を終える準備に入ります。そして、毎年、新しい経営者と小規模生産組織を誕生させていきます。

  もう少しの間、私のわがままとお付き合い下さい。

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