トップページ>希望社について>刊行物のご案内>創業者コラム:遊自耕>遊自耕147
創業者桑原によるコラム「遊自耕」は、隔月発行の建築情報誌「飛翔」誌上にて連載しています。飛翔の送付をご希望の方は、飛翔送付申込フォームよりお申込下さい。(送付無料)
昨年11 月、オープンして間もない当社の宿泊施設「ウィークリー翔ホテルなんば」で、こんなことがありました。
宿泊客がフロントに現れて、「毛が落ちていた。どうしてくれる」「掃除はきちんとしているのか」 敷布団の下に髪の毛が一本落ちていたそうです。
施設のスタッフは「申し訳ありません」とひたすらお詫びしましたが、納得してもらえません。「上司を出せ」「部屋をハイグレードのものに替えろ」などと、どうしても収まらない。
いくらお詫びしても聞き入れてもらえず、結局、別部屋に移ってもらうことでその場は引き取っていただきました。なお、スタッフからは、掃除も布団敷もきちんとできているし、落ち度はなかった、と報告を受けています。
こんなお客様の要望はどこまで受け入れたらいいのかと、スタッフから相談を受けました。
レストランの食事にゴキブリが入っていたわけではないのだから、お客様の要望に道理があるなら素直に応じることだし、そうでなかったら“ご指摘いただきありがとうございました。今後注意します。”と返すのが、ビジネスマナーとしての限度だと私は思っています。
ですから、「こんな人は、どこに行っても同じようない いがかりを付けるクレーマーだと思うよ。」「ウィークリー 翔は、“清潔・安全・笑顔を大切に、どこよりも安くお泊り いただくこと”を第一にして、宿泊提供しているのだから、それができているのなら、自分自身がぐらぐらせずに、自 信をもって対応することだと思うよ。」とアドバイスをしました。
ここでスタッフが悩んでしまうのは、長年にわたり作られてきた、お金を「払う側」と「いただく側」との間の習慣があるためです。それは、お金を払う側の心底にある「泊まってあげるのだから、大切に扱われて当然」と、お金をいただく側にあ る「宿泊していただき儲けさせていただく」との関係に基づくものと言えます。
お金をいただく側は、少し前の「お客様は神様」、最近では「お・も・て・な・し」などという訳の分からない言葉に流されて、それが商売の基本であるかのように、あるいはよく考えもしないで、お金を払う側の人たちとコミュニケートしているのかもしれません。一方、お金を払う側も、一般の宿泊施設ではお金を払って非日常的なサービスの提供を受けているために、宿泊施設では、お金を払う側であるというだけで意識しないまま高姿勢な物言いになっているのかもしれません。
多くのビジネスホテルは、お客様の要望に数多く応えることで集客しています。客室のアメニティーグッズは増え続け、無料の朝食も自宅のものとは比べものにならないほど豪華、23 時までなら無料で夜泣きそばが食べられる、なんて施設まであります。
しかし、ウィークリー翔は、宿泊費をできるだけ安く抑えたいと望む庶民のためのものであり、その実現のために華美・過剰を避け質素を旨としています。ですから、多くのホテルでの宿泊体験に根ざした要望にはお応えしない施設であります。
これが分かる人にだけお泊りいただき、そうでない人に は、できたらご遠慮していただきたい施設です。
「あるといいね」でなく「なくてもいいね」を売りにするウィークリー翔の経営姿勢に共鳴しお泊りいただく人たちと、儲け過ぎずに施設提供を心掛けるスタッフが、共同して育て上げていくものでありたいと思っています。
「全国にカジノ併設の総合レジャー施設を」と、ろくに審議もしないでカジノ法案を国会で成立させ、「毎月最終金曜 日は午後3 時に退社して、旅行にショッピングに金を使え! 金を使え!」と国民をけしかけるアベノミクス。
私は、こんな不毛な経済成長政策にそこはかとなく反対すると同時に、政治家に期待したり文句を言ったりするだ けでなく、自分たちがこんな政治や政治家たちを作り出していることに気づき、そんな自分を変えていこうとする人 たちが育っていくことを願いながら、ウィークリー翔を続けていきます。