当社代表桑原によるコラム「遊自耕」は、隔月発行の建築情報誌「飛翔」誌上にて連載しています。飛翔の送付をご希望の方は、飛翔送付申込フォームよりお申込下さい。(送付無料)
世界同時不況はまだまだ改善される様子はなく、当社の経営も依然厳しい状況が続いています。しかし一方で、百年に一度の不況は、当社の悪しき現状を浮き彫りにし、本質的改革の道に戻るきっかけを与えてくれました。
不況により、特に当社の売上の中で相当の比重を占めていたデベロッパーからの案件が次々と問題化したことで、当社が何のために、誰のために創られた会社なのかということ(企業理念)を、改めて考えさせてくれたのです。
「会社は儲けのための装置であり、たくさん儲けて株主と社員にたくさん分配する会社がよい会社だ。」世間では長年こんなことが言われてきました。
多くの会社が、“社会貢献”とか“お客様のために”とかいったことを企業理念に掲げています。が、まやかしのベールを剥がしてみると、お客様からは一円でも多くの利益をあげ、社員は甘い言葉で安く使い、経営者自身が株主として大量の利益を得るために経営がなされ、増収・増益を求め続けます。
しかし、希望社は、あくまでも“顧客の要望を実現し、顧客の利益に貢献する”ための会社です。これまでも、「良い建築を安く」というスローガンの下、ビジネスをより透明・競争的・顧客本意のものにしていくことで、世間より2割前後安く建築を提供し、顧客の利益に貢献してきました。
自社がたくさん儲け、株主や社員により多く分配することを目的として存在しているのではないのですから、顧客からいただく報酬も“顧客の要望を実現し、顧客の利益に貢献する”という目的を継続して実施していく社員集団を維持するために必要な金額(薄利)があればよいのです。
私が希望社を設立した目的は、もともと“建築界のあかひげ”になること、つまり低所得者や社会的弱者に良い建築を安く提供することです。当社の業務は、国家権力の番人である官僚や、もっぱら利益の拡大のみを目指す事業者、特に生産を伴わずマネーゲームで成り立つ企業や物品の流通過程に居るブローカー的な人達に対するものではありません。
また、当社の目的は、低所得者等に対して直接サービスを提供するだけでなく、より多くの人々が良い建築を安く実現できる社会基盤を作ることです。そのために、問題だらけの建築生産システムを改革することにつながる事業を手がけるのであり、この意味で、現在の設計事務所やゼネコンからの不透明なサービスに悩まされている一般の事業者も、当社のサービス提供の対象にしています。
なお、社会的弱者は国家によって作り出されたものであり、その実質的な運営者は官僚ですから、官僚体制と闘うこととビジネスを一体にして進めていかなければなりません。
これが、20年という時間のなかで、知らず知らずのうちにブルジョアジーの価値観に影響され、儲けるための習慣に流されていました。
「人のため、社会のために働け」「希望社の企業理念に関心と共感を持つ者でなければ、社員ではない」こんなことを社員に言いながら、理念の深耕を図ってきたつもりですが、実際には見るべき成果を得ていないことに気がつきました。
振り返ってみると、私自身の理念実現のための熱意や理念実現を阻む者への怒りに、不徹底さがありました。その原因は私の心の片隅にある自惚れや不遜であることも見えてきました。
「希望社と自分は、一般の企業と異なる価値観を持ち、弱者のためになっている」こう思い込み、システム改革のテンポの遅さやその実質的効果がまだまだ少ないということに対して、曖昧なまま過ごしていたのです。
自分の成長がなければ社員も成長しない。自分を振り返りながら、社員には繰り返し繰り返し理念の実践を問い続けて行きます。その中から希望社の理念を誇りにできる社員達が育っていきます。私はそんな社員達を同志として、理念に満ちた経営を進めていきます。
20世紀の価値観が崩壊した今、これからどんな変化が生まれてくるのか良く考えながら、ぶれないで本道を歩むよう努力していきます。