CM導入の留意点

CMを導入しても失敗する

今世間で語られているCMをそのまま導入しても、失敗することは目に見えています。根本的な要因は、発注者が情報不足のままCMを試み、日本の建設業界の歴史と現状に対する認識と判断能力に欠けたCMR(コンストラクション・マネージャー=CM実施会社)に、業務を委託していることにあります。 CMRはあくまでも、発注者にとって役立つ新しい職能を確立した集団です。このような集団がいずれは出て来るでしょうが、現状ではまだほとんど皆無の状況です。 "100年以上の歴史を経た現在の日本の建築生産システムの、どこを活用し、どこを制限するのか。それにより、どのような成果を得るのか。"CMRには、具体的な判断ができる能力と経験が求められています。 具体的に言えば、次のようなことです。

その1:GC(ゼネコン)を通さなければ安くなるという認識のあやまち

"GCを通さなければ、それまでGCに支払っていた経費と利益分が削減され、それが工事費の低減につながる"ことは確か。しかし、"GCを通さず発注者が直接SC(サブコン)に発注すれば、GCの経費と利益を上回る、高価なものを買わざるを得ない"

これまでGCは、厳しい受注競争に勝ちわずかでも利益を確保するために、専門工事費を抑えるための努力を続けてきた。談合体質の強い専門工事業や、仕切価格を支配する建材メーカーに対して、一定の折衝力を持ち工事費を低減させる役割を負っていたのである。

発注者や設計者にこの折衝力があると思うのは錯覚であり、間違いである。だからこそ、CMRにそれが求められるのであるが、現状においては、そのような期待に応えられるCMRはほとんどいない。

その2:地元専門工事会社の受注は増えるが、自由競争によるコスト低減には結びつかない

直接地元業者に絞って発注すれば、地元以外の業者は排除され、地元業者が受注することになる。しかし、それは、常日頃顔を知っている人たちによる談合的受注が約束されるだけである。

発注者にとって重要な関心事である建設コストの低減は果たされず、発注者は高いものを買わなければならない。

その3:GCが負ってきたリスクを発注者が引き継ぐことは出来ない

施工に当たり、品質、工程、安全、原価に関する管理は、一般的にGCによってなされている。この中でGCの存在なくしては出来ない項目がある。

第一は工程管理。GCのみが総合工程立案能力や週間・月間工程などの調整機能をもっている。現在のSCは、GCの管理下で各職種単独の工程を管理する機能しかもち合わせていない。

第二は安全管理。複雑な作業環境の下で人間の生命を守るため、安全管理組織を確立・運営したり、足場や揚重などの計画を立案し実施することは、GCなくしては考えられない。

このふたつの管理はGCが歴史的に確立しシステム化したもので、他の業種にはないノウハウである。また、建設業法の見地からみても、GCに代わる者はいない。発注者やその代行者としてのCMRが引き継ぐことなどできないものなのである。

成功するCM導入の仕組み

重要なことは、GC、SC、そしてCMRと言われる者の現状がこれまでの歴史の延長線上にあることを直視することです。そして、GCの役割を正しく評価し、その上でCMを導入することです。

すなわち、GCを排除せず、GCの持つプラスの面を活用しながら、マイナス面は改善していくことであり、その役割を負うのがCMRということになります。

具体的な仕組みとしては、以下のようなことになります。

その1:コスト低減効果を確実にする

GCのもつ現在のコスト競争力を活用しながら、工事費の80%前後を決定しているSCにも広く受注のチャンスを提供し、競争的調達を図る。今までGCにより決定されてきた価格に、SCの調達によるコスト効果をプラスした価格低減が実現する。

  1. GCだけでなくSC各社にも見積内訳書を提出させる。
  2. コスト競争力と技術力に優れたSCを選定。
  3. 選定したSCが、GCよりも低額の場合は(技術力や信用も考慮した後)その金額でそのSCを採用するよう、GCに要請。

SCの金額がGCの金額を下回らなかった場合は、その職種については当初GCから提出された金額を採用するので、コスト低減は最大になる。

その2:コスト透明化を実現する

前述した方法で直工費を決定した上で、GCに仮設工事費と現場経費を内訳明細書付で提出させる。CMRはそれを査定し折衝を行い、工事原価を決定する。この金額にGCが希望する工事利益を加算すれば、コストの透明化を図ることが出来る。このような過程を経て出された金額を、発注GCの決定に使う。

その3:価格だけでない評価を加えて発注先を決定する

落札条件として、金額だけではなく、技術力、信用、そのほかの評価項目も設定する。各項目をウェイト付けして点数化したものに、金額を点数化した数値を加えて、総合点により発注先を決定する。

落札条件を明記することにより、発注者の発注意図に沿った発注が可能になる。

その4:施工管理方法

工程管理については、まずCMRが基本工程の提示を行なう。GCは総合工程表を立案し、SC各社に対してこれを提供する。設備工事等を分離して発注する場合においては、ゼネコンが他の元請設備会社等を統括する形で日常的な工程管理を実施することとし、その権限を契約上明確にしておく。

安全管理については、発注者が原則としてGCの技術者の中から統括安全衛生責任者を選任する。

その5:GCからの他の元請設備会社等への共益費徴収を禁止する

共益費とは歴史的には賦金と言われていたものであり、その使途は不透明である。GCは、他の元請設備会社等の工事に係る仮設費や現場経費を、それらから共益費として徴収するのではなく、発注者に直接請求することにし、その内容をクリアーにする。

その6:重層下請に対する工事費の支払いを現金払いとする

発注者は元請会社に対して、「下請け会社への工事費の支払いを現金で行う」よう、契約上明記する。

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