当社代表桑原によるコラム「遊自耕」は、隔月発行の建築情報誌「飛翔」誌上にて連載しています。飛翔の送付をご希望の方は、飛翔送付申込フォームよりお申込下さい。(送付無料)
1月31日、国交省は『昨年の新設住宅着工戸数は前年比17.8%減』という大変な統計数値を発表しました。また、建築着工の遅れによって資金繰りが悪化した建築設計事務所や建設業者が増え、倒産件数も増大しています。
建築工事は数ヶ月から数年にわたる事業ですから、建築着工件数の激減は今後も建設業や建築資材メーカー等の経営に影響を与え、わが国の人口の10%を占める建設業従事者の生活を脅かす要因となります。
また、建設業は基幹産業ですから、この影響は建設業に限らず全ての産業に及んでいき、サブプライムローン問題や原油の高騰と同様にわが国の景気に重大な影響を与えるものと思われます。
このような問題の原因が昨年6月20日の改正建築基準法施行であることは、言うまでもありません。
国交省は、耐震偽装行為の再発防止のために建築基準法を改正し、建築確認手続きを複雑かつ厳格にしました。姉歯という特異な人物の法違反と同様の行為が善良な建築士にもありうるという、いわゆる性悪説に立った対策です。
国交省は、新たに構造設計に関する専門審査機関(「適判機関」)を設けて確認検査機関とダブルチェックをさせることにしました。また、確認申請に膨大な添付書類を要求し、書類の提出後の訂正をほとんど認めなくしました。
このように確認手続きを複雑・厳格にしておきながら、国交省は、改正法が施行されてからも、新しい構造計算の基準に関する解説書や大臣認定構造計算ソフトが準備できなかったり、適判機関の検査要員が十分採用できていなかったりというおそまつな対応に終始しています。
また国交省は、建築確認に関する明確な判断基準を示さないまま確認検査機関に対する監督を強化したために、確認検査機関の判断に混乱が生じ、確認手続きの著しい停滞を招きました。審査にどのくらいの期間がかかるのか質問をしても、「100日くらいではないか?」とか「業務が滞っているので受付できない」と返される始末です。
この混乱の責任は、確認申請を代行する建築士や確認検査機関にあるのではなく、国交省にこそあります。
そして、国交省の責任に言及した「イーホームズ」(耐震偽装を最初に国交省に通報し、世間に知らしめることになった民間確認検査機関)の認定を取り消し見せしめのための生贄にするなど、国交省には自分の犯した罪を反省し改善しようとする姿勢が全くみられません。
各関係者からの批判・要望を受け、国交省は、改正法施行後しばらくして確認手続きの緩和措置を打ち出しました。また、ようやく大臣認定構造計算ソフトの第1号ができ、建築確認件数も少しずつ改正法施行前の水準に近づいているようです。
しかし、建築確認申請手続きの混乱は収まっていったとしても、良い建築を安く実現する上での問題は全く解決されないで残っています。単に改正法施行のための準備に問題があったのではなく、改正建築基準法そのものに根本的な問題があるのです。
重大な問題のひとつは、確認検査期間の原則が従来の21日から35日に延ばされたこと、さらに、個人住宅を除く圧倒的多数の建物については、適判機関によるダブルチェックが必要となったために、35日が70日に延ばされてしまったことです。
二つ目は、工事が始まってから設計変更をしようとすると、これまでは簡易な手続きでできたものでも、建築確認の取り下げと再申請という手続きを経なくてはならなくなったことです。再申請をすると新たな建築確認済証が交付されるまで工事を中断しなければならず、工事再開にむけての施工技術者や職人の確保や、製作中の建材の処理など、複雑な問題が発生します。
これらは発注者に金銭的・時間的負担を強いる重大な問題です。それとともに、改正法は、従来から建築確認制度を許認可制度のように運用してきた行政の誤った姿勢を改めず、逆に強化するものです。
設計は、法に定められた技術的基準に従って建築士の権限でなされるべきものですが、改正法はその権限をこれまで以上に制限しています。
改正建築基準法は国交省によって立案され、情報不足の国会議員により成立しました。今私たちにできることは、このような国民いじめの悪法を定着させないよう意思表示をすることです。
建築基準法の抜本的改正を要求する、国会請願活動を始めましょう。建築主の要望がきちんと受け入れられた良い建築を安く実現するための国民運動です。
日本の建築文化と柔軟な建築技術発展のために立ち上がりましょう。