当社代表桑原によるコラム「遊自耕」は、隔月発行の建築情報誌「飛翔」誌上にて連載しています。飛翔の送付をご希望の方は、飛翔送付申込フォームよりお申込下さい。(送付無料)
耐震強度偽装事件が発覚して、早くも4ヶ月がたちました。当初騒がれた違法建築物を建てた犯人(責任の所在)探しは一段落し、現在は、今後どのようにして偽装や違法建築ができないようにするかという対策についての議論が盛んに行われているようです。
さまざまな提案のなかで主流だと思われる方向の一つが、「厳重な建築確認」です。特定行政庁や民間確認検査機関の検査職員を増やす、構造専門家を配置する、これらとは別の機関や専門家による二重審査をする、より信頼性の高いプログラムにする、審査期間を延長する、などといった方法で、設計図書に厳しいチェックを加えるというものです。
しかし、このような管理・指導強化は、当然建築確認に要する費用と時間の増加を伴うものであり、建物を安く早く建てたいという建築主の要望に反するものです。また、審査体制の拡充には多額の予算が必要であり、国民全体の税負担を増大させます。さらに、審査の組織ややり方をいくら強固に構築しても、巧妙な偽装などに対して完全なチェックは不可能であり、実効性の面でも大いに疑問が残ります。
この対策、言い換えれば「建築確認制度をどのような内容にするか」ということについては、耐震強度偽装事件がどのような状況のなかで発生し、そのどこに問題があるのかを十分検証したうえでなされなければなりません。
100棟もの建物で偽装が見逃されてしまった最も根本的な原因は、建築確認制度の規定のあいまいさと、行政によるその誤った運用実態にある。私はそう思います。そしてこの意味で、国や行政機関に大きな責任があると考えます。
「建築確認制度」はそもそも、建築士の作った設計図書を念のため行政がチェックするという趣旨のもので、戦後の復興のため多数の建物が建てられようとしていた時期(1950年)に、同時に新たな制度として創設した「建築士」の能力不足を補うための確認制度として制定されたものです。つまり、本来建築計画(設計図書)の合法性や安全性を保証する制度でも、建築工事の許可制度でもないのです。
一方で、建築技術が高度に発達し建築件数がおびただしく増加している現在においては、設計図書の完全なチェックは、確認をする職員の体制や技術力の面から不可能です。
にもかかわらず、確認審査は、特定行政庁の確認業務担当者によって建築工事の許可審査であるかのように扱われているというのが現状であり、この制度に関する法令の規定があいまいであることとあいまって、社会に対して、行政にあるはずのない権限をあるかのように思わせています。(某マンション販売会社社長が建築確認済証を「(合法性の)お墨付き」と言ったのは、無理もありません。)
国は、これまで行政がとってきたこのような姿勢を省みず、行政による管理・指導をさらに強めようとしている。これこそが重大な問題ではないでしょうか。
このような対策を認めることは、行政にむなしい望みを託すことになるだけではありません。すでに述べたように、管理・指導の強化によって直ちに建築主や国民の利益が損なわれるのです。
建築確認制度について言えば、まず、建築基準法の条文を改正し、「建築確認を経て建てられた建物の合法性・安全性について、確認実施者(特定行政庁・民間確認機関)はその責任を一切負わない」ことを明確にする必要があります。
そして、現在「建築基準関係規定」全般とされている建築確認の対象事項を、「集団規定(「都市計画に関する規定」)」と「単体規定(個々の建築物の安全確保のための技術的基準)のうち〔耐火建築物の義務付け〕など周囲の建物に影響のある事項に関する規定」に限定するべきでしょう。
現在の確認審査の技術的・体制的な状況から考えれば、この建築確認範囲の縮小案は現実的な内容と量であり、また、建築の公共性から考えても必要十分であると思います。
また、現在の社会の流れは、国や地方公共団体の財政困窮状態に基づく行財政改革、すなわち公の規制をできる限りなくして民間や国民の判断や活動に委ねる方向にあります。建築確認制度が公共サービス制度に過ぎないものである以上、その内容を現状に適したものにするのは当然です。
違法建築の防止はもちろんのこと、建築主が良い建築・安い建築を手に入れるためには、建築技術の現状を直視し、行政のあり方を考えた上での制度改正が必要です。
建築確認制度だけでなく、建築工事の中間検査・完了検査制度や工事監理制度などについても改正案を考えてきましたが、紙面が尽きてしまいました。
この続きは、ホームページに掲載している「良い建築・安い建築を実現するための、建築制度改革の提案」を、ぜひご覧下さい。(この提案書は、衆参両議院、各政党政派、雑誌・新聞などのマスコミ等に郵送しています。)