来年入社予定の若者達に、"社員を自立させる"をテーマに討論させてみた。さすが世間ずれしておらず、国家も企業も頼れるものではないことはそう矛盾なく受け入れるのである。
ところが、「自立」となると、親から離れて暮らす、親の資金援助を受けない、他人に心配かけない、即ち、乳離れ、巣立ちの類で止まってしまう。
しかしさらに討論させていくと、自分の知識や技術を高めるために会社を踏み台にして、できるだけ早く社を引いていく、と短い時間だったが、なかなか立派な結論を引き出した。感心し、心強く感じた。
在職社員の討論会は、さすがに実生活をしているので、意見は一様ではない。入り込んだのがボランティア論である。(飛翔87号P7〜8で紹介)
今年度経営方針の「"会社"を解体し社員を自立させる」ということを、「会社は社員に給料を払わない。だから他の収入源を取得せよ。そのうえで、希望社で働きたいという奇特な社員出でよ」と読解している者がいる。また、「会社が払えない時はしょうがない。希望社の給料に関わらずどうやって自分の生活を確保していくか考えれば、希望社の給料だけで足りない時は、おのずから別のこともやらなければいけない」などという意見も出る。なかなかかみ合わない。
議論を聞いていると、希望社が「顧客本位の業界改革」に取り組んでいることへの理解度の違いが、噛み合わない理由の一つであるかもしれないと感じた。
景気の停滞は、生き残りをかけた企業同士の価格競争を加速させる。これに打ち勝つために、希望社は成果連動型賃金制度を確立した。
年功序列で年を追うごとに賃金が上がるのではなく、半年毎に評価基準を作って働き、業績評価によって賃金が昇降する。マイナス評価が続けば賃金は下がり続け、最後は自主退職となる。この賃金制度を運用することにより、生産性の高い社員が中心の強い会社創りができると考えた。
しかし、この徹底した成果主義は結果として社員を企業に依存させ、企業への従属を強めることにつながっているということに、気が付いた。企業間競争に打ち勝つために人件費の縮減が求められるこれからの時代において、社員の企業への依存・従属(つまり賃金増加の要求)に企業はいつまで持ちこたえられるであろうか。
また、希望社は良い建築を安く実現するために存在する企業である。安い建築を実現するため、如何にして安くサービスを提供するかを考えると、賃金を上げ続けることは、企業の存在意義に反するものではないだろうか。
だから、社員に対し、会社への過大な期待や幻想を捨て、今より自由で豊かな働き方を求めて旅立つことを勧める。それが、今年度の経営方針である"社員を自立させる"ことである。そして、この自立支援の一つとして、事業用不動産の取得を支援し、社内事業家計画を進めているのである。
当社は設立当時から、「働かされない働き方」ということを模索してきた。これは"会社の縛りから解き放たれ、自分の意思で自由に働くこと"と言い換えることもできる。
真の意味でこのような働き方をするためには、社員一人一人が自立していなければならないと思う。だから、会社が組織として自立を支援することは、「働かされない働き方」のできる環境づくりとも言える。
社会ではすでに、常用雇用を原則に一生を託して働く働き方、すなわち、「企業社会」が崩壊しつつある。企業の原価圧縮の結果としてパートやフリーターが増え、従業員の会社への忠誠心は弱まっている。この脆弱化した集団意識に、新しい働き方が生まれる萌芽を感じる。そして、この変化に対応して、企業側にも今までとは異なった働き方をつくり出していく必要が生じている。希望社の自立支援は、そのための実験でもある。
希望社の自立支援は、社員の企業への依存・従属を解き、新しい働き方へ導くものだ。それにより、自由な意思に基づいて働き暮らす者が多く生まれるはずである。
それらの者のなかから希望社の理念や社会的役割を理解し共鳴するものが集団をつくり活動する。これほど、力強いフットワークを持った会社づくりの方法はない。
こんな組織のなかで行なう一人一人の活動を、仕事と言おうがボランティアと言おうがかまわないではないか。