当社代表桑原によるコラム「遊自耕」は、隔月発行の建築情報誌「飛翔」誌上にて連載しています。飛翔の送付をご希望の方は、飛翔送付申込フォームよりお申込下さい。(送付無料)
創立20周年を迎えた本年、当社は厳しい経営危機に直面しています。これは1993年、1998年に続く3度目の危機であります。
最初の危機はいうまでもなく、不動産バブルの崩壊によるものです。1980年代後半、建設業界は、オイルショックから始まった「冬の時代」が終わり、わが国がかつて経験したことのないバブル景気に支えられて、予想もできなかった好況に転じました。それが、建設投資が最高潮に達した1992年を最後に需要が激減し、当社もその影響を受けたのでした。
2度目は、金融ビックバンと呼ばれ、金融機関が大量に保有した不良債権の処理を目的に再編成されたことによる影響でした。そして今回です。
建設業界では、すでに昨年から、経済政策の全くわからない人達が行った改正建築基準法施行による官製不況が始まっていましたが、米国のサブプライムローンの崩壊による世界同時不況が起こり、その影響を受けて株価暴落、円高、そして、金融機関の貸し渋りという流れのなかで、建築需要が一気に冷え込んでしまいました。
こうして見てみると、当社が体験した経営危機は、当社独自のものではなく、経済の好・不況に支配されながら、発生していることが分かってきました。そして、私達の生活に大きな影響を与えて企業の存続まで支配する景気の良し悪しは、なぜ起こるのか。その理由を知り、それを予測し、対策を講ずる必要性を痛感し、早速「閉塞経済−金融資本主義のゆくえ」(金子勝著)という本を読んでみました。
「現代は、お金がお金を生む経済=金融資本主義の時代にあり、バブルとバブル崩壊が10年毎に繰り返されるが、これは主流派経済学では解析できない。」どうも、こんなことが書かれているようです。
困ってしまいました。一零細企業の経営者として、これでは健全経営の継続など不可能です。いっそ、もう少し大きな会社にして、民事再生法の恩恵を期待しながら、廃業と再建の道を繰り返して歩むシナリオの研究でも始めることにしましょうか?
金融資本主義経済の話はよくわかりません。ただ、わかる範囲で考えてみるに、当社の経営の方向転換を図る必要があることは確かなようです。
売上を伸ばし利益を増やして大会社をめざす。これが「企業」というものです。しかし、ライバル会社も当然増えるし、需要にも限度があります。
今、80年以上の輝かしい歴史をたどった米国の自動車メーカーのビッグ3も、ビッグ3でなくなりそうです。日本を代表し世界のトップ企業に登りつめたトヨタも、あるいは10年後には……?
零細企業の希望社も、無意識に事業規模の拡大を目指してきました。そして、20年を経て、もはや新しい会社とは言えなくなり、私も高齢者の仲間入りをしました。こんな会社が大手企業を見習い生きることに意味があるのだろうか。
積極的な生産拡大を行わず、供給は需要の範囲にとどめて、ゆったりとした環境を創る。こんな方向性を持った企業群と、質素と倹約を楽しむ人々からなる、新しい社会を志向することが大切ではないか。そんな風に思われてなりません。今、この新たな実験を始めなければなりません。
これまでの20年間、皆様のおかげで、私は経営や生き方などにかかわる種々な実験をさせていただきました。そして今、これからの変化の時代に送る余生にも、引き続き、希望社という実験牧場での新たな実験の楽しみを与えていただきたいと、切に願っています。
現在当社では、経営再建計画を一つ一つ懸命に実行しています。しかし、皆様のご支援なしでは、実験牧場の維持ができなくなります。
「良い建築を安く」求める方々の要望の実現を、これまで以上にめざします。読者の皆様には、サテライトシステムへの加盟と、顧客の紹介をよろしくお願いいたします。