当社代表桑原によるコラム「遊自耕」は、隔月発行の建築情報誌「飛翔」誌上にて連載しています。飛翔の送付をご希望の方は、飛翔送付申込フォームよりお申込下さい。(送付無料)
今、世の中のたくさんの企業が「企業理念」を掲げています。
一般的に企業理念とは、“企業の存在意義”“企業が事業を行なう目的”などと言われています。
でも、ひねくれた見方かもしれませんが、私には、“なんだかんだと理屈をつけながら、企業が大きな儲けをスマートに手にするための道具”でしかありえないように見えてなりません。
よくあるのが“○○によって(○○を通じて)社会に貢献する”というものですが、この“社会貢献”というのが、どうもまやかしクサイ。
“社会貢献”には、もちろん、社会に対してその企業の良いイメージを広める効果があります。
しかしもう一つ、多くの従業員を集め一つに束ねるための「精神的支え」としての働きがあり、これにより、大量に安い生産が可能となり、企業間競争に打ち勝ち大きな儲けを出すことが可能になります。
つまり、「企業理念」には企業が儲けるために従業員を会社に縛り付ける錯覚装置という面があります。
当社にも“良い建築を安く実現する”(これも“社会貢献”?)という「企業理念」があります。
私は当社を設立してからずっと、“働かされない働き方”をする社員の集団をめざしてきました。
そのために、就業時間の定めをやめたり、さまざまな勤務形態を作ったり、年功序列型賃金制度を撤廃して成果連動型にしたりして、企業経営とバランスをとりながら社員が多様な働き方を選択できるようにしました。
そのうえ最近では、社員の自立をテーマに、社員が蓄えなしに自宅を持ったり、マンション経営をして副収入を得る道まで可能にしてきました。
しかし成果連動型賃金制度は、会社の生産と利益には効果はあるが、社員たちはより高い賃金を得るために働くようになり、“働かされない働き方”とは言いがたいのではないかと思うようになってきました。
とすれば、これもやはり錯覚装置であったことになります。
「企業理念」が企業の理念である限り、「社員思いの人事制度」も社員を縛る錯覚装置であることを免れません。
一方で、多くの人間が集まって事業を行っていくためには、「理念」や「組織制度(システム)」がなくてはなりません。
ただやはり、これまでの企業社会がつくってきた、会社がなくては生きられない社員を、今後は会社を活用しながら生きる「自立した人間」に転換させていきたいと思います。
それは、20世紀の価値観(会社と社員の相互依存)とシステム(雇用関係)に基づいた「会社」を、「自立した人間」のために役立つまったく新しい集団(それは「会社」と言わないかもしれません)に変えていくということなのかもしれません。
6月から始めた「新・理念委員会」は、「企業」の理念をつくるためのものではなく、「自立した人間とその集合体」のあるべき姿について、考える場にしたいと思います。
充実した新理念に到達できるかどうか分かりませんが、20世紀に確立された企業社会の先が予測できるものを目指して取り組んでいきます。
「企業」にどっぷりつかる前の、非常識で自己中心的な新卒社員たちがたくさん参加している委員会だからこそ、未知なものへの挑戦が可能になると期待しています。
変化の激しい時代には、会社も個人も大胆な変革が不可欠です。そのためにも8月に出版された私の著書『社員が進んで働くしくみ』(P9にて紹介)を、今号遊自耕の副読本にご活用いただけたら幸いです。ベストセラーにご協力ください。