当社代表桑原によるコラム「遊自耕」は、隔月発行の建築情報誌「飛翔」誌上にて連載しています。飛翔の送付をご希望の方は、飛翔送付申込フォームよりお申込下さい。(送付無料)

遊自耕117号

庶民が手に入れられる住宅を

貧しい人にも住宅を

 

失業中の人、病床に伏している人、こんな人々が住宅を手に入れるのはとてもむずかしい。

大きな財産を得た人にも、その日の暮らしもままならない人にも、住宅はこの世に生を受けた人全てにとって、なければならない物です。

住宅は、財なく貧しい人でも得られる物でなければなりません。

悩みのエコ・エコ住宅

住宅は無料では取得できません。そこで私は、できる限り安価でと考え、「エコ・エコ住宅」を考えました。壁式鉄筋コンクリート造、25坪で1,000万円(税別)です。

それでも1,000万円という金額は、借りるのも大変な大金です。土地のない人は宅地も買わなければなりません。一生懸命考えて、エコロジーでエコノミーなものをと取り組んでいるのですが、貧しい人でも手の届くものになりません。

鉄筋コンクリートで、雨風に強い窓。使い易いキッチンや洗面、便所、風呂、それに大量の電力引き込みや空調。これらを当然の前提として計画している限り、貧しい人の住宅を実現することはできません。

誰が住宅を財ある人たちの物にしてしまったのか、その根源を正さなければなりません。

国家が犯した罪悪

庶民の住宅は、昭和24年までは親族共同体で造ってきました。敗戦の復興を目的に、昭和25年に建築基準法と建築士法が制定され、それから60年、建築のイニシアチブは官僚の手ににぎられ、建築士がその代理人となって、住宅の悲しい歴史が確立されてきました。

住まう人の財力や価値観に応じて異なった住宅が求められ実現されるべきだと思うのですが、建築確認や完了検査などの制度によって官僚規制は強化され、暮らし方の自由までも制限されてきました。

災害や事故のたびに強化される規制。住宅がつぶれて良いと言っているのではありませんが、新潟地震から始まる数次にわたる震災は、そのたびに鉄筋の量を増やし、柱の太さを大きくして、住宅を年々高価で住まいにくいものにしています。

特に、近頃の法の改正は馬鹿げています。建築資材から発生する極めて微量な有害物質を強制的に除去するために、24時間換気扇を回せと言うのです。国家的に節電が叫ばれているにもかかわらず、です。

住宅を建ててから壊すまでの間に、おそらく一回も使うことはない火災報知器の設置義務付け。高気密・高断熱にするための外壁の断熱材設置や複層ガラス使用を求める省エネ法。これらの政策は、安全とエコロジーを建前に推し進められていますが、実際は、産業界の売上増の手助けをして、貧しい者に高い工事費を押しつけ、住宅取得の道を狭めているのです。

どう暮らすのか、どれだけ支出できるのかは、住まい手の判断によるものであり、国家の制限は最小限にすべきであります。

自然な暮らしがよみがえる

都市化した超高層ビル群、こんなものが永遠に存在する訳がありません。修繕不可能となった建物と繁茂する樹木からなる廃墟が、私には鮮明に見えています。

エコロジーを言うのならば、国は、国民に節電生活を求めることとあわせて発電量の大量縮減計画を示し、農業を再興したり樹木の大量植林に取り組んだりしていくべきです。

長さ3mの丸太と長さ5mの麻のロープ8本があれば、住宅はできます。丸太を立て、そこから八方に張られたロープに、木の小枝と大葉をからめれば完成です。

これでも、酷暑には日除けに、風雨には雨除けに、酷寒には寒さ除けになり、人が生存するための必要最小限の条件を備えている立派な「住宅」です。

もちろん、荒天の時は雨が漏ります。吹きとばされます。夏は暑く冬は寒い。でも、そうでなければ人間は生物として退化してしまいます。

長持ちさせることも、安全であることも住宅の絶対条件などでは有りません。住宅に関するあらゆる規制を見直せば、住宅の工事費は半減して貧しい人にも手に入れられるようになり、それとともに、自然な暮らしがよみがえってくると思います。

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