当社代表桑原によるコラム「遊自耕」は、隔月発行の建築情報誌「飛翔」誌上にて連載しています。飛翔の送付をご希望の方は、飛翔送付申込フォームよりお申込下さい。(送付無料)

遊自耕86号

低入札への規制は止めろ!

いたるところで

 今私は、“岐阜市は、さまざまなやり方で当社の公共工事入札参加の制限を行っている”とみなさんに訴えています。

 ただ、岐阜市に見られるこのような入札参加制限の方向性は、岐阜市に限ったことではありません。ほとんどの地方自治体や国が、同じような制度を運用しているようです。

安い金額で入札してはいけない

 公共工事の落札率は年々下がっています。国の工事に限って言えば、2000年度は96.7%だったものが2004年度の94.2%まで徐々に下がり、2005年度は一気に91.5%に落ちました。

 「落札率が下がることはそれだけ安く工事ができることで良いことだ」こんなあたりまえな感覚が、しかし、官僚には受け入れられません。「安い金額で仕事を請ける者は、材料をごまかし、手抜きをし、下請には約束した金を支払わず……、その結果良い工事はできない」というのです。

 そこで、国や多くの地方自治体は、従来から、一定金額以下で入札した企業に対して「低入札価格調査」を行なっています。ちなみに、2005年度の国の工事では928件でこの調査が行なわれていますが、これは前年度の2倍近い数字です。

 ただ、この調査をしても「その(低い)金額では工事ができない」と言い切れず、結局ほとんどの工事で請負契約が締結されているのが現実です。

 だからなのか、約半数の県で低入札価格調査制度のなかに「失格基準」を設定して、その数値基準を満たさない入札者を自動的に失格としています。

 また、中部地方整備局(国土交通省の8地方支分部局の一つ)などは、低入札で受注した企業に対して、その企業がその工種で受けた工事成績評定の過去2年の平均点が、過去2年間に中部地方整備局が実施した全工事成績評定の平均点未満の場合は、その工事が完了するまで他の工事の入札参加を認めない(落札価格が低入札基準価格を超えていれば、このような制限はない)という措置を決めています。

安い即悪い?

 官僚が唱える「低価格入札工事の工事成績は悪い」というリクツについて、私は大いなる疑問をもっています。現に私が数年前から参加している「長野県公共工事入札等検討委員会」では、平成16年度の県内工事で落札率と工事成績との間にはほとんど相関関係がないと報告されています。

 また、「下請会社が赤字になるような契約を迫ったり、約束した下請負代金が支払われない」という問題についても、本来「元請会社と下請会社の間の契約の締結と履行」や「下請会社の企業努力」という視点でみるべき問題なのに、「低入札を排除する」ことで解決を図ろうという誤った対応がなされているのです。

 落札率が下がってきたのは、独占禁止法の改正等により、談合組織が解体したりその影響力が弱くなったりしたためでしょう。(ゼネコン大手4社の落札率は、昨年平均97%だったのが、今年の1〜3月は79%に急落しています。)

 つまり、今までは指名競争入札が圧倒的であったのが一般競争入札が大幅に拡大されたことなどとあいまって、ようやく本来の価格競争がはじまっただけのことです。

 なのに、これを悪だと称して、低価格の入札をさせにくくするような対策を打ち出すことは、大問題だと言わざるを得ません。

 高齢者を狙った悪徳リフォーム会社や無理難題を言うならず者集団と、談合せず企業努力によって安い金額で入札する真面目な会社を、同列に並べて一刀両断に切り捨てるのは、いかがなものでしょうか?

自由競争を保証せよ

 自由な入札参加に対する制限の背後に、“低価格で入札する会社を排除して欲しい”という業界団体の要望があることは確かな事実です。これは、これまで談合によって高い落札率を維持してきた業界が、談合が成立しにくくなってきた状況の中で生き残り、充分な利益を得るためのものに他なりません。

 入札は、一定のものを、入札者の自由競争に基づいて安く調達するための制度です。

 ですから、自由な入札参加に過剰な制限を加える官僚は、この目的実現を阻止し、建設会社に安定的な高額受注を保証する、業界談合の司令塔ということになります。

 入札制度を設計し運営する責務を負っている官僚は、国家的課題である行財政改革の方向に反するこのような制度政策は直ちに止め、自由競争を保証してより安い工事の実現に努力すべきではないでしょうか。

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