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21世紀の新しい建設業宣言

1.20世紀型建設産業は崩壊する

右肩上がりの日本経済が終わり、社会・経済の構造が変化する中、20世紀型建設産業も終焉の時を迎えている。当社はこの建設産業で起こっている劇的な変化を冷静に見つめ、21世紀に向けた「新しい建設業」へ生まれ変わることを宣言する。

(1) 建設産業の現状

留まることのない縮小・倒産

わが国の建築事業は、約120年のあいだ、建築事務所と総合建設会社の2大業種により支えられてきた。ところが20世紀の最後の数年間に、このいずれもが急速に淘汰・縮小の道を歩み始めている。これからの21世紀はこの傾向がさらに加速され、今のような業態の建設産業はまちがいなく崩壊する。この消え去って行くであろう建築事務所と総合建設会社を、20世紀型建設産業と呼ぶ。

▼建設業の倒産件数・経常利益率推移

▼ゼネコン大手3社の売上・経常利益推移

▼建築事務所大手3社の売上・利益推移

全国レベルの大規模なゼネコンについては、この崩壊の状況は連日報道されており、ここで詳しく述べるまでもない。受注や売上の激減、利益の低下、金融機関への多額の債権放棄要請、そして倒産と、この縮小過程は留まることを知らない。

この傾向は、建設会社のみならず、建築事務所についても全く同様である。ただ、建築事務所は総合建設会社と比べればその企業規模が極めて小さく、日本経済にほとんど影響力がないため、話題にならないだけである。

決定的な問題

大規模ゼネコンが崩壊の道をたどっている最大の理由は、バブル期に発生した大量の不良債権であり、それによる財務状況の悪化であることにまちがいはない。しかし、決定的な問題は、この不良債権処理を容易にさせない社会環境の変化、すなわち建設需要の急激な減少である。そしてこの問題は、地方の中小建設会社や建築事務所の存続にも同じ影響を及ぼす。

わが国の建設需要は、戦後の人口増加を条件にその規模を拡大させてきた。しかし現在1億2600万人を超えている人口は、40年後には1億人近くまで減少するという。また、景気の動向や地方公共団体の財政状況などから考えて、民間・公共ともに、建築需要の低下は避けられない状況になっている。

現に、92年には84兆円に達した建設投資額が99年は71兆円に至っていない。また、主要ゼネコン64社で構成する日本建設業団体連合会(日建連)の受注実績も、99年度はピーク時の90年度と比べ6割程度の水準にまで落ち込んでいる。

これに対し、現在の建設産業の生産力はあまりにも過剰である。建設業の就労者数は、97年をピークにようやく減少し始めたが、事業者数はいまだ増え続けている。今後もさらに建設需要が縮小するのは明らかであり、この先にあるのは倒産、廃業、それに相当大規模なリストラだけであろう。

▼建設投資額・事業者数・就業者数の推移

▼日建連受注額推移

(2) 「20世紀型建築システム」の崩壊

建設産業は消滅することはない。しかし、20世紀型建設産業は、縮小されたパイの中で生き残ることはできない。21世紀に生き残る建設産業は、真に建築主の利益と要望を実現することができる「新しい建設業」である。

他の産業では商品やサービスが消費者本位に提供されているのに、20世紀型建設産業は生産者本位の体質から脱皮できていない。すなわち、他の産業分野では透明性・競争性が実現されてきているが、20世紀型建設産業は相変わらず不透明・競争回避・情報操作の古いシステムにしがみついている。そして、「良い建築を安く」という建築主の要望を実現できない建築物を造りつづけている。

この古い体質から脱皮することが、「新しい建設業」の条件となる。そしてこの古い体質からの脱皮は明治以降120年にわたって作り上げらてきた「20世紀型建築システム」を崩壊させることにより成り立つ。

「20世紀型建築システム」とは、「設計は設計者に、工事は施工者に」「施工者は設計者の指示と承認のもとに生産する。」というものである。

その役割は近代国家建設時にあった

このシステムは、明治11年、わが国で初めて西洋建築技術を学んだ「建築家」が誕生したことに端を発する。それまでの日本建築は、設計も工事も大工・棟梁と呼ばれる建築技術者が一括して行っていた。

「建築家」は、明治政府の〈富国強兵・殖産興業〉の方針のもとで、庁舎・学校・病院・駅舎など大量の公共建築の設計をし、自分で工事管理をしながら「請負人」には労働力の提供をさせた。「請負人」には建築技術を持たない者が多く存在し、請負業は人出し稼業であった。このような経緯から、「設計者が設計し、施工者を監理監督しないと、良い物は造れない。」という思想が生まれ、設計施工分離の「20世紀型建築システム」が確立していったのである。

このシステムを基本とした建設産業は、強大な官僚体制と一体のものとなって、社会基盤の脆弱な農業国を世界に冠たる軍事大国に発展させ、敗戦後は世界第2の近代工業国家実現の役割を負った。しかし一方で、このシステムは多くの弊害を生み出している。

建築主を無視したシステム

設計と施工が分離されたことにより、"図面は描けるが、どのようにして造るのか、いくらの費用がかかるのか。全く分からない設計者"と"どのように造るかは分かるが、なぜ造るのか、造ったものから何を得ようとしているのか、考えた事もない施工者"とで、建築が行われるようになってしまった。"建築に求められる要素が複雑化・多様化し、それに対する能力もないのに、建築主に対してはオールマイティーを自称し、施工者に対しては「監理」という権限を振りかざす設計者"と"何もわからない設計者を「先生」とおだてながら、建築主からは一円でも多くの利益を得ることだけに汲々とする施工者"が、建築主不在の建設産業を作り上げてきたのである。

2.新しい建設業

21世紀に生きる「新しい建設業」は、このような「20世紀型建築システム」が崩壊することにより、創生される。「設計」と「施工」に無責任に分断されていたサービスを統一し、企画・設計・施工・保全について総合的に責任を持つことが、「新しい建設業」の条件となる。

「新しい建設業」は、優れたデザイン力と確かな技術力をともに提供できるものでなければならない。また、建築主のニーズに忠実であり、建築の目的を的確に実現するものでなければならない。そして、建築主に対して情報が公開され、透明で競争的なシステムに支えられているものでなければならない。

この「新しい建設業」をめざす者は、従来のいわゆる総合建設会社とは限らない。建築事務所、専門工事会社、不動産会社、その他どんな業態の企業であっても、建築主の要望に応えられる資質とサービスを有する企業であれば、「新しい建設業」となりうる。一方で、設計者は長い間掴んで離さなかった権限を徐々に失い、やがては新しい建設会社の業務に組み込まれてその職能を果たしていくことになる。

現在急激なスピードで進行している情報革命が、この「新しい建設業」の確立を過激に推し進めるであろう。一方、このような建設産業の自主的な改革を阻むものとして、「官僚による建築行政」を忘れてはならない。官僚の判断基準には「良いものを安く」という視点はない。ひたすら手続きに従う事を求める。こういった官僚の姿勢に対しては、妥協のない戦いが不可欠であろう。

3.希望社は「新しい建設業」をめざす

建築事務所を捨てて、"新しい建設会社へ"

当社は設立から10年間は建築事務所として、その後の2年間はそれに建築請負業を併設して成り立ってきた。ただし、JCMという従来の建築事務所や総合建設会社の定型的業務とは違ったサービスを核にしながらである。そして今、2001年1月1日をもって、今までの体験を生かしながら今までと違った業態に変身し、新しい生き方を求めることにする。設計と施工を統一して提供する「現代の棟梁」を目指す。

これは、言いかえれば、「建築事務所」を捨てて「新しい建設会社」に生まれ変わるということだ。"「建築事務所」を捨てて"というのは、「設計者というもの」が本来持っている―すなわち、当社もまた持ち合わせてしまっている―権威的で官僚的な思考を完全に捨て去り、逆に権威的で官僚的なものと戦っていくことにより、"良い建築を安く"という建築主の要望を真に実現する企業になるということである。もちろん、今まで行ってきたCM業務は今後も続けていく。

建築主の要望を丸ごと引き受ける

当面は、20世紀型建築システム崩壊の中で苦しみあえぐ建築事務所や総合建設会社との競合を繰り返すことになるであろうが、目指すところは、当社のポリシーと実績を評価する賢い建築主の行なう事業の実現を支援する存在として、その信頼に基づいた設計施工特命工事の比率の高い建設会社となっていくことである。もちろん、「建築主を建築の主人公」にすえ、「良い建築を安く」提供するためのあらゆる改善を図りながらである。

また、新しい業務形態として、従来の総合建設会社のような〈建築の設計を軽視し建築主の発注を待って多数企業が群れ集まるようなやり方〉を避け、市民各層のニーズを掘り起こし、そのニーズに沿った建築を商品化し提供していく。

このような「新しい建設業」への改革を行うために、当社の社員には、常識やタテマエに流されず物事の本質を見極める洞察力と、改革をやり遂げる行動力を求める。また、原則として、〈自分で設計し自分で造る〉という従来の建設会社には存在しなかった技術者になることを求め、そのための教育的措置を図って行く。

ビジョンを共有する企業と主に

当社のこの試みは、新しい時代にむけて企業改革を推し進める多くの企業との連携の中で実績を上げていく。総合建設会社・専門工事会社・建材メーカー・建築事務所といった従来の建設産業だけでなく、各種コンサルタント・不動産・保険金融・情報産業などあらゆる業態のなかから、「21世紀の建設業」のビジョンを共有できる企業と協力関係を持ちネットワークを広げる。自社だけが独走するのではなく、お互いのメリットとなる技術・人材・設備・情報などを提供しあいながら「建築主主体のサービス」を実施し、それにより共に業績をあげていくのである。

古い業界の真の改革は、法律や行政指導によるのでもなく、業界団体の取り決めによるのでもない。当社のような企業がたくさん生まれ、それらの企業の活動のうねりの中で、実現されるものであることを信じている。

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